豊島区の司法書士&土地家屋調査士 赤坂卓【あかさかすぐる】の日記

豊島区西池袋で開業している司法書士&土地家屋調査士です。相続・会社設立、不動産登記、新築・増築の登記、CAD図面作成などを得意としております。日々の業務に関する情報や独立した人間のリアルを発信しております。

相続放棄者による相続財産の管理義務

司法書士土地家屋調査士の赤坂卓です。

 

今日は、相続放棄者による相続財産の管理義務について書きたいと思います。

 

 

 

本題に入る前に、「相続放棄」について簡単に触れておきます。

 

 

今回の記事で出てくる「相続放棄」という言葉は、家庭裁判所に申述してする相続放棄を指します。ですので、相続人の間で遺産分割協議などを行い、相続財産を取得しない旨の意思表示をする場合とは事例が全く異なります。

 

 

 

 

民法に以下の規定があります。

 

(相続の放棄の方式)
第938条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
(相続の放棄の効力)
第939条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす
 
 
 
 
 
相続放棄というと、被相続人が借金などの負債を抱えており、それらを相続したくない場合に利用する、というのが一般的に知られている利用法ではないでしょうか。
 
 
 
 
最近では、利用価値のない不動産、例えば田舎の山林や使用しない空き家など(“負”動産などと呼ばれたりもします)を相続したくない場合に、相続放棄をする方も増えています。
 
 
 
 
相続放棄をすると「初めから相続人とならなかったものとみなされる」為、被相続人が有していた相続財産を取得する事はありません。プラスの財産であろうとマイナスの財産であろうと「初めから相続人ではない」ので、相続財産を相続することはない、という扱いなのですね。
 
 
 
 
 
 
 
 
さて、ここから本題に戻ります。
 
 
 
 
 
それでは、相続放棄をした者は、一切の権利義務から解放されるのでしょうか。
 
 
実は、民法に以下のような条文が存在します。
 
 
 
 
(相続の放棄をした者による管理)
第940条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
 
 
 
 
 
相続放棄をしても、管理する財産がある場合、他の相続人(または次の順位の相続人)が管理を始めることができるまで、管理する義務があるというのです。
 
 
 
 
 
 
 
例えば、誰も管理していない空き家などをイメージすると分かり易いかも知れません。
 
 
 
 
被相続人が死亡し、相続人が相続放棄し、空き家がそのまま放置されると、隣地や周辺住民の方々は困るのではないでしょうか。
 
 
 
 
そのような場合に、民法940条を根拠に相続放棄をした者に、何らかの義務履行ないし責任を問えるのか、という問題があるのです。
 
 
 
 
 
 
実は、この点につき、解釈や見解が分かれており、現時点での定説はないようです。
 
 
 
 
そんな中、国土交通省及び総務省が平成27年に行った「空家等対策の推進に関する特別措置法」に関する質問への回答の中で、民法第940条義務はあくまで「相続人間のものであり、第三者一般(例えば地域住民等)に対する義務ではない」との見解を示しています。
 
 
 
 
 
もちろん、この見解が絶対のものではありませんが、上記の見解によると、相続放棄をした者に対して、相続人ではない第三者らが何らかの義務履行ないし責任等を問う事は難しいと考えられるでしょう。
 
 
 
 
 
実際問題として、昨今、社会問題ともなっている空き家問題の現場では、かねてより民法940条を根拠に、相続放棄者に、空き家の管理義務を、第三者(例えば市町村等)との関係でも負わせる事ができるのかが問題となっていたようです。
 
 
 
 
 
以上のように、相続放棄者の相続財産の管理義務については、発生要件や義務の内容等が不明確であったことから、本記事を書いている時点で、改正民法が成立しており、条文の文言が以下のように改められています。(施行予定日は令和5年4月1日)
 
 
 
 
(相続の放棄をした者による管理)
改正民法第940条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
 
 
 
義務の発生要件や内容、終期等、現行民法より文言が詳細になったのがお分かりでしょうか。
 
 
 
 
 
 
 
 
さて、いかがだったでしょうか。
 
 
 
私も、日々業務を行う中で、相続人が相続放棄をしている場面に出くわす事があります。他に権利義務を承継した相続人がいるのであれば良いですが、そうでない事もあります。
 
 
そのような場合に、上に述べたような知識見解が、一つの指針となり得ると考えております。