今日は、破産管財人の任意売却に関する登記について書きたいと思います。
破産管財人の任意売却の登記は、司法書士であれば、一度は体験したことがある、という人も多いのではないでしょうか。
破産管財人の任意売却において、不動産の所有権移転登記をする際、通常の手続とは異なる点がいくつかあります。
以下、登記の視点からポイントとなると思う点を箇条書きにまとめてみます。
①裁判所の許可証 が必要
②所有権の登記識別情報、登記済権利証 が不要
③破産管財人の選任を証する書類(3ヵ月以内) が必要
④破産管財人の届出印の印鑑証明書 が必要
⑤破産管財人が任意売却した不動産の所有権移転登記の申請は、当該不動産について破産の登記がされていない場合であっても、受理される。
さて、かくいう私も以前に経験したことがあるので、添付する書類などは知っておりましたが、これらの「根拠」となると、実は複数の法律の規定や先例通達が絡み合っています。
以下、忘備録も兼ねて、根拠となる条文等を提示します。
① 裁判所の許可証 が必要
(破産管財人の権限)
破産法第78条 破産手続開始の決定があった場合には、破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は、裁判所が選任した破産管財人に専属する。
2 破産管財人が次に掲げる行為をするには、 裁判所の許可 を得なければならない。
一 不動産に関する物権、登記すべき日本船舶又は外国船舶の任意売却
(添付情報)
不動産登記令第7条 登記の申請をする場合には、次に掲げる情報をその申請情報と併せて登記所に提供しなければならない。
ハ 登記原因について第三者の許可、同意又は承諾を要するときは、当該第三者が許可し、同意し、又は承諾したことを証する情報
※ 登記原因証明情報に、裁判所の許可を得た事実の記載が必要です。
∵「登記原因」とは「登記の原因となる事実又は法律行為をいう。」と定義される。(不動産登記法第5条2項)
② 所有権の登記識別情報、登記済権利証 が不要
(昭和34年5月12日 民事甲第929号)
③ 破産管財人の選任を証する書類(3ヵ月以内)が必要
④ 破産管財人の届出印の印鑑証明書 が必要
(平成16年12月16日 法務省民二第3554号)
※ 破産管財人の個人の実印+印鑑証明書(3ヵ月以内)でも可
(昭和34年4月30日 民事甲第859号)
(破産管財人の選任等・法第74条)
破産規則 第23条 裁判所は、破産管財人を選任するに当たっては、その職務を行うに適した者を選 任するものとする。
3 裁判所書記官は、破産管財人に対し、その選任を証する書面を交付しなければならない。
4 裁判所書記官は、破産管財人があらかじめその職務のために使用する印鑑を裁判所に提出 した場合において、当該破産管財人が破産財団に属する不動産についての権利に関する登記を 申請するために登記所に提出する印鑑の証明を請求したときは、当該破産管財人に係る前項に 規定する書面に、当該請求に係る印鑑が裁判所に提出された印鑑と相違ないことを証明する旨 をも記載して、これを交付するものとする。
※ 破産規則第23条4項に該当する場合は、選任証明書と届出印に関する印鑑証明書が1枚の書類にセットになって発行されます。
(添付情報)
不動産登記令第7条 登記の申請をする場合には、次に掲げる情報をその申請情報と併 せて登記所に提供しなければならない。
二 代理人によって登記を申請するとき(法務省令で定める場合を除く。)は、当該代理人の権限を証する情報
(代表者の資格を証する情報を記載した書面の期間制限等)
不動産登記令第17条 第七条第一項第一号ロ又は第二号に掲げる情報を記載した書面であって、市町村長、登記官その他の公務員が職務上作成したものは、作成後三月以内のものでなければならない。
(代理人の権限を証する情報を記載した書面への記名押印等)
不動産登記令第18条 委任による代理人によって登記を申請する場合には、申請人又はその代表者は、法務省令で定める場合を除き、当該代理人の権限を証する情報を記載した書面に記名押印しなければならない。復代理人によって申請する場合における代理人についても、同様とする。
2 前項の場合において、代理人(復代理人を含む。)の権限を証する情報を記載した書面には、法務省令で定める場合を除き、同項の規定により記名押印した者(委任による代理人を除く。)の印鑑に関する証明書を添付しなければならない。
3 前項の印鑑に関する証明書は、作成後三月以内のものでなければならない。
(委任状への記名押印等の特例)
不動産登記規則第49条
2 令第十八条第二項の法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
三 裁判所によって選任された者がその職務上行う申請の委任状に押印した印鑑に関する証明書であって、裁判所書記官が最高裁判所規則で定めるところにより作成したものが添付されている場合
⑤ 破産管財人が任意売却した不動産の所有権移転登記の申請は、当該不動産について破産の登記がされていない場合であっても、受理される。
(登記研究545号)
【参考】
(個人の破産手続に関する登記の嘱託等)
破産法第258条 個人である債務者について破産手続開始の決定があった 場合において、次に掲げるときは、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、破産手続開始の登記を登記所に嘱託しなければならない。
一 当該破産者に関する登記があることを知ったとき。
二 破産財団に属する権利で登記がされたものがあることを知ったとき。
※破産の登記がされている場合、破産管財人の任意売却によって、その不動産は破産財団に属しないことになるので、裁判所書記官の嘱託によって破産の登記が抹消されます。(昭和32年3月20日 民事甲第542号)